胚培養士の仕事シリーズ〜顕微授精において胚培養士は何を行うのか?無精子症におけるマイクロTESEにおける精子回収について
様々な技術の進歩によって、これまで無精子症と診断されていた場合も妊娠することが可能になりました。なぜならば、精液中に精子が確認されなくとも、精巣をくまなく探すことで精子をみつけることができるようになったからです。
その無精子症には閉塞性と非閉塞性の2種類あります。前者は精子がつくられているにも関わらず精子の通り道(精路)に問題がある場合、そして後者は精子がほとんどつくられていない場合を指します。ちなみに、手術にて避妊を目的としてパイプカットを行った場合は前者の閉塞性に分類されます。
●閉塞性無精子症の場合の対処法とは?
この場合には2つの選択肢があります。
ひとつめは、パイプカットの場合も含めて、精子の通り道を作りなおす、精路再建手術です。精路再建術が成功すれば、自然妊娠が可能になることもあります。
そしてもうひとつが、TESE(精巣精子採取術:Testicular sperm extraction)と呼ばれる術式です。
TESEとは精巣自体の組織を採取し、その場で精子が存在しているか確認しながら精子の回収を行っていくものです。閉塞性無精子症の場合には、精子の通り道に問題があるだけなので、ほとんどの場合、精巣内には精子が存在します。その精巣内の精子を使って顕微授精を行い、治療していきます。
●非閉塞性無精子症の場合の対処法とは?
この場合は通常のTESEよりもより高度な技術が要求されるマイクロTESE(MD-TESE)の適応となります。顕微鏡下で精巣内の組織をよく観察し、精子のありそうな組織を回収します。
では、精子は一体どこにあるのでしょうか。
精子は精巣に存在している精細管でつくられるのですが、無精子症の場合は精細管ごとにその産生能力が異なります。つまり、全ての精細管で精子がつくられているわけではないのです。このような背景があるので、非閉塞性無精子症は精子の絶対数が圧倒的に少なくなるわけです。
限られた精子を探すために、数ある精細管の中から精子がつくられていると思われる精細管を採取します。精子がある精細管は太く白濁しているなどの特徴がありますので、これを目安に当たりをつけていきます。これは、まさに医師の腕のみせどころです。
マイクロTESEは、より丁寧で高度な作業が要求されるので手術時間は長めです。早ければ1時間を切ることもありますが、長いと2時間ほどかかります。
そして何よりこの術式は、望む方全てが行えるというものではありません。費用も高額ですし、何よりこの技術を行うことのできる施設が限られているのが現状です。
そして、この回収した精細管の組織の中から、非常に数の少ない精子を探し出し、顕微授精するのが胚培養士の仕事になります。精巣の組織には、精子以外の細胞がたくさん混在し、その中から、精子だけを採取するのは高度な顕微操作が必要になります。また、ときには、この数少ない精巣精子を凍結保存して顕微授精することもあります。
凍結すると、状態の良い精巣精子を回収するのがさらに困難になりますので、胚培養士の根気と集中力が試される上に、熟練した経験がものをいうでしょう。