浅田レディースクリニック 浅田先生と福永部長インタビュー 「なぜ浅田塾と胚培養士育成サポートを作ったのか?」

今回は、名古屋駅前とJR勝川駅前の2箇所で不妊治療に取り組んでいらっしゃる浅田レディースクリニックの浅田院長と、受精卵や卵子、精子を最前線で取り扱っていらっしゃる福永さんにインタビューをさせていただきました。

こちらのクリニックでは何より結果にこだわり、治療を始める際にも患者さんが納得した上で進められるよう、事前に初診受診前説明会を実施されています。こうすることで、予めクリニックの特徴や治療方針を知ることができ、後々のミスマッチを防ぐことができるとの考え方に基づいています。

そのような考えをお持ちの浅田先生が今回語ってくれた内容は、2014年に引き続き2回目の開催となるドクターアカデミー浅田塾についての想いです。

*浅田塾の概要については、こちらをご覧ください。
ドクターアカデミー浅田塾 2015

それでは、浅田先生のインタビューをどうぞ!

●浅田塾を開講した想いをお聞かせください。
これまで生殖医療に携わっていく中で、学会や論文などを通して常に新しい情報を得て、それを自分で試し、良いと思うものを選択して取り入れてきました。そして、成績の良いものを積み重ねてTipsとし蓄積していったのですが、ふと周りを見回してみると、皆が同じようなスピードで変革を進めていっているわけではないと感じたのが、開講のきっかけです。

常に時代は変わっていくので、3年4年と同じような医療を行っていてはもうその時点で遅れをとっているのではないだろうかと、私は思っています。

一般の患者さんを目の前にして本当に大事なことは、毎日行っている定番の治療をいかに良くしていくかというところです。新しく目を引くような、話題性のあるトピックスは一見興味をそそられて飛びつきたくなるけれども、本質はそこではありません。

現在は、そのような定番の治療について議論するためのたたき台すらない状態ですよね。そのため浅田塾では、医療の延長線上としての生殖医療を伸ばしていきたいと考える方たちに、自分がこれまでやってきたエビデンスやプロトコルを発表していくことで、良い悪いなどの議論ができるようになればと思っています。

従って、浅田塾は毎回同じことを話すわけではなく、回数を重ねるごとに進化し内容も変化していきます。第3回目もご期待ください!

浅田先生、ありがとうございました。

第2回目の浅田塾はすでに2月7日をもって終了していますが、今後の開催にも期待が膨らみます。

それでは引き続き、胚培養士である福永さんのインタビューをどうぞ!

●2016年4月から胚培養士に向けたFUKUNAGA ART Labが主催する胚培養士育成サポートを予定されていますが、開講に向けた想いをお聞かせください。
このスクール立ち上げようと思った一番の理由は、現場で困っている胚培養士のサポーターになりたいと純粋に思ったからです。

私が胚培養士として働き始めた当初は、培養室の手順書も手書きでしたし、今よりももっとスタンダードなテキストがない状態でした。本当にこれでいいのだろうか?と感じることも多かったので、現場で知識や技術を身につけながら学会では演者の方や論文を執筆されている方をみつけて、疑問をひとつずつ潰してきました。

そのような中で、胚培養士としての人脈の構築や仕事のスタンダード、業界の方向性について身をもって体験することができたと思います。

しかし、いま生殖医療の現場にいる胚培養士が皆一律に、私と同じようなやり方で進めていけるかというと、そうではありません。

例えば、2,3人のラボでデータを取り、新たなものを導入していくというのは症例数も少ないですし、どうしても難しいところがあります。そうであれば、大規模なクリニックは信頼できるデータや発表を通じて、エビデンスとして参考にできるものを証明していくべきだと思います。

そして、そこに追随していくことによって、業界全体のレベルアップが図れると信じています。

●FUKUNAGA ART Labを開講される理由が他にもあれば、ぜひお聞かせください。
胚培養士という職業の社会的認知度を上げたい、という想いもあります。
つまり、胚培養士を社会にあるひとつの職業として、一般の人にも認知してもらいたいということです。

私は獣医学部で繁殖に関する知識を学んでいたこともあり、希少動物の人工繁殖に興味を持っていました。しかし、そのような仕事はあまりなく、1年間の就職活動を経て選んだ職業が胚培養士です。

当時はまだ胚培養士という言葉すらなかったですし、就職先のことを父親に話したとき、かなり詳しく説明しないと理解してもらえなかったという経験があります。その現状は今もほとんど変わっていませんね。

そんな中でも唯一、私が就職してからの17,18年の間に変化したのが、エンブリオロジストや培養士という職業があると学生さんにある程度伝わったということなのですが、依然として、一般にはほとんど認知されていません。

また、当院で不妊治療を受けられている患者さんに5年間、約3000人患者さんにとったアンケートをとった結果をみても、多くが2施設目以降にも関わらず95%以上は胚培養室を見たことがないのです。

これでは、胚培養士と患者さんとの間で、最低限の信頼が結べていないのではないかと感じました。そこで、名古屋駅前クリニックでは事前に患者さんの培養室見学や、ガラス越しの培養室見学説明会を実施することで最初のステップとしての信頼関係が結べるようになりました。

私はこのように「見えているラボ」のスタイルは、徐々にスタンダードになると思っていますし、胚培養士や培養室も見えていることで、ゆくゆくは一般の方にも草の根的に胚培養士という職業が順繰り伝わっていくと信じています。

もうひとつは、技術力の向上という点です。専門職として技術力を上げ、維持していくことが系統立ててできていなければ、胚培養士として良い認知のされ方はしないかもしれません。

いま胚培養士は全国に2,000人ほどいますが、専門職としての技能が求められているにも関わらず、その受け継がれはあまりなされていないという実態があります。さらに、胚培養士の経歴から考えてもまだ2,3年という方が一番多く、経験不足のまま教えているという現状も無きにしも非ずです。

実際に、入職してから2年目にも関わらず、先輩や同期が辞めてしまったために主任になったというケースもあります。やらざるを得ない状況ではあるのですが、経験も少なくマネジメントも難しいので、結果的にできないということになってしまうのです。

●2,3年という短期間で辞めてしまう主な理由は何だとお考えですか?
一番は、思っていたのと違うということではないでしょうか。どんな職業でもそうだと思いますが、同期や上下の関係性ですね。特に、胚培養士は狭い培養室で仕事するので、そこは大きいと思います。

二つ目は、やはり仕事が思っていたより厳しかったということです。

厳しいというのは、肉体面だけではなく精神面ではないかと思います。一個の重みが大きすぎて持ちきれないと感じてしまう。そのために、チームとして動いているつもりですが、この仕事を担っていくという個々のモチベーションがないと、どんなにチームで支えようとしても難しい部分がありますよね。

培養室の様子です。

それらの面も含めて、やはり採用活動の段階でどれだけ胚培養士に合っているか、見極めることは必要だと思います。

また、胚培養士は技術があればできるというものでもありません。社会人として当たり前のことが大前提としてできなければ仕事にならないと思っています。
胚培養士の平均年齢は20代後半ですし、2,3人体制でチームを組んでいる多くのクリニックではほぼ20代で構成されていますので、社会的に未熟だということは常に感じています。

●FUKUNAGA ART Lab開講するきっかけになった出来事があれば、教えて下さい。
私の中でのきっかけとなったのが東日本大震災です。

ここに来る前は仙台にいたのですが、もし震災当時、あそこにいたらどんなに恐ろしいことになっていたかと思います。インキュベーターやタンクが倒れ、スタッフも怪我をしていたかもしれません。また、すぐには出勤できなかったかもしれません。どれも実体験していないので想像の範囲を越えないのですが。

そのとき、いま名古屋からできることは何だろうと考えたあげく、液体窒素を持って行こうと思い立ちました。食物や物資が不足している中、液体窒素は優先順位から外れてしまいますからね。しかし、いま液体窒素が途絶えたらタンクの中は枯れ、受精卵などの維持は難しいだろうと。

実際のところは、実行する前に現場での供給が再開されたので、行くことはしませんでした。しかし、これで良かったと思う反面、胚培養士として結局何もできなかったという気持ちが強く残りました。

このときの気持ちがやはり心残りであり、胚培養士として何かしたいという想いがFUKUNAGA ART Labにつながってくるのです。

もし、本当に困っている胚培養士が助けて欲しいというときに、このプロジェクトと巡り会えるならば、私が困っている胚培養士に寄り添うことで、そこに存在する患者さんにも寄り添いたいと思っています。

だから、全国からスクール生を募集したいということではなくて、今の自分の技術や成績に問題があって何とかしたいという人がいたならば、一緒にやってみませんかという立ち位置ですよね。

●カリキュラムはどのような感じになるのでしょうか?
大きく分けて3つコースを設けていて、ひとつは技術サポートをするスキルアップコース、もうひとつはリーダー育成コース、そして、技術指導者育成コースです。

スキルアップコースに関しては、ICSIコース5人、凍結融解コース5人、技術指導者育成コースに関しては12人を基本として考えています。

特に現在は、胚培養士の技術に依存している部分があるので、スキルアップコースでこれらの技術をアップしてもらえれば、患者さんの恩恵は必ず増えます。

そして、実施内容ですが、スキルアップコースについては毎週火曜日と金曜日、4週に分けて開講の予定で考えております。

私なりの言葉で理論を教えた後に、ビデオトレーニングをして、今からこうなりたいと思う目指す方向性の一番良いベストのビデオを見て、イメージをそこで固めてもらいます。

次に、演習として僕またはコーチのスタッフが実際にやっているところを見て、やっと本人の実習になります。これをずっと繰り返します。

ですので、本人が実習する際にも、本人がここへ来て実習する際にも、今の自分の手技をビデオに撮ります。そして、目指すべき方向性のビデオと自分のビデオを何回も見比べて、イメージをすり寄せていきます。

その後、ここで実施したビデオを現場に持って帰り、次回までに何を目標に、どんなことをいつまでやるのかというのを決めて1週間実習期間とします。もちろん、テキストも用意します。

そして、次に来た時には1週間の成果をテストとして試してもらいます。それを4段階でステップごとにだんだん難しくしていき、最終的には当院の現場でやっている凍結融解の生存率、ICSIの受精率と同じ数字が出せるように進めていきます。

リーダー育成コースは、ラボ長さんとして自分のラボをどう運営していくのかという課題に対して、仮になりますが私流のチェーンフレームというひとつの思考の整理を中心としたマネジメントコースを実施していきます。

人数については、各コースのクオリティーを維持するため、この人数で限定させてもらっています。

また、3つのコースを受講することも可能ですが、これには前提条件を設けています。

本当に自分の技術に問題を感じている人に来てもらわないと意味がないので、スキルアップコースに関しては、成績がここに至っていないなど自身の成績を提出してもらい、技術的に不安がある方を限定として開講します。

浅田レディースクリニック(名古屋)待合室です。

リーダー育成コースついては、すでにラボ長さんとして、またはラボ長さんランクの方でで、培養室での課題解決に不安を感じている場合が対象となります。

ちなみに講義の中では最初に、社会における他の職業と同じように一般常識についての講義も組んでいます。

胚培養士に関する講義で、そのようなことをやっているところは少ないと思いますが、それらは社会人にとって非常に大事な基本的スキルだと思っています。

●開講にあたってどのような設備を用意されますか?
スクールラボをつくり、スキルアップコースに関してはワークショップ中心に、その中で実習をしていきます。

巷に凍結やICSIを教えるワークショップは存在しているのですが、触る時間が少なすぎるため、せっかく参加しても出来るようにはならないという問題を抱えています。

そこでこのスクールラボでは、1人1台の顕微鏡、つまり基本的に1つの括りに対して5名のスクール生さんを限定とし、スクールラボの中にはスクール生専用に5台の倒立顕微鏡、5台の実体顕微鏡を用意します。

●価格はどれくらいになりそうですか?
スキルアップコースに関しては、1コース25万円を考えていますが、金額は暫定的にリサーチしている途中ですので、まだ正式に決まっていません。

●フォローアップなどは考えていますか?
それも考えています。
ただ、プログラムの中で4回をしっかりとやり終えたら、当クリニックの現場で働く胚培養士と同じ成績が出せるように、今プログラムを組んでいるところです。従って、基本的にはこの4回のプログラムをしっかりやってもらうためのプログラムになりますね。

一番望ましいのは4回、4週の間、みっちり付き合ってもらって卒業してもらうということです。

また、ここに集ってくる方々は現場で困っていると思うので、胚培養士同士の横のつながりというのも必要なんじゃないかと感じ、卒業生を集めたファンミーティングもやりたいと思っています。

●最後にこれだけは伝えておきたいということがありますか。
繰り返しになりますが、FUKUNAGA ART Labはあくまで現場で困っている胚培養士のサポーターになりたいと思っています。そして、そのことを通じて胚培養士さんとそのクリニックの患者さんに寄り添わせてもらう。

つまりは、現場で困っている胚培養士さんの横で寄り添える存在でありたいと思っています。

<まとめ>
今回お話を伺った浅田先生も福永さんも、これからの生殖医療をいかに良くし、患者さんに貢献していくかという課題を常に追求しながら、日々取り組んでおられることがひしひしと伝わってきました。

そして、浅田塾もFUKUNAGA ART Labも、お二人がこれまでやってこられたエビデンスや素晴らしい技術に触れることができるまたとない絶好の機会なので、ぜひ必要だと思われている方に届いて欲しいなと思いました。

〜関連サイト〜
浅田レディースクリニック

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株式会社IVFサポート
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