2017
10.30

ASKAレディースクリニック 今野胚培養室長インタビュー

胚培養士インタビュー

今回は、ASKAレディースクリニック培養室長の今野先生にお話を伺うことができました。
こちらのクリニックは、奈良県初の不妊治療専門医院として多くの患者さまが訪れており、今野先生はASKAレディースクリニックに在籍されてちょうど8年目を迎えられたところです。

胚培養士になられたきっかけや日々、工夫されていること。また、近年の不妊治療についてお感じになられていることなど色々聞かせていただきました。

それでは、インタビューをどうぞご覧ください。

●胚培養士になられたきっかけを教えてください。

私は大学と大学院で「応用動物学」を専攻していました。専門はブタの精子の凍結保存でした。

はじめから胚培養士を目指していたわけではなく、製薬会社や化粧品会社に就職しようと考えていましたが、就職活動中、「大人」になりきれず、自分の意見を言いすぎて最終面接に落ちてしまうという繰り返しでした(笑)。

傷心の私に、先に「胚培養士」として働いていた友人からその業務内容を教えてもらい、興味をもったのがきっかけです。

今となっては、企業への就職活動に失敗して、最終的にこの素晴らしい「胚培養士」という職に就くことができて本当に良かったと感じています。

●こちらで勤務されて、何年目になりますか?また、勤務された当初と比べてどのような変化がありましたか?

ASKAレディースクリニックに勤務してからは2017年の9月で8年目になります。

一番実感しますのは、実施件数の増加です。私が勤務した当初は、採卵件数が400、胚移植件数は500くらいでしたが、2017年は、採卵件数は700を超えると思いますし、胚移植件数については800くらいになると思います。

体外受精・顕微授精をはじめとするARTの社会的な認知度の上昇とともに実施件数が増加していることに加え、当院の治療方針と技術力を信頼してくださる患者様が増えているのではないかと思います。身の引き締まる思いですね。

●院内で、学術的な知識レベルを維持するためにされていることはありますか?

個々が関連学会に積極的に参加・発表することで、学術的な知識レベルを維持する努力が重要なのは言うまでもありません。

そのうえで、週一回、医師、培養士、看護師で「院内症例検討会」を開催し、個々の症例を通じて、治療法などをディスカッションしたりしています。また、このとき、最新の治療法や参加した学会で得た最新情報などについて共有するようにしております。

●どのような部分にやりがいを感じますか?

培養士の仕事というのは、医師と同様、自分の持っている技術や得た知識がダイレクトに治療結果に反映されると思います。

胚の凍結・融解操作や顕微授精はもちろんなのですが、基本的な卵子・胚の操作についても培養成績に大きく影響いたします。

また、精子、卵子、胚の状態については、患者様によって様々です。これに対処するには、知識・経験が大きくものを言います。

培養士の技術は、「ゴッドハンド」と呼ばれるような、一握りの人間しか出来ない特殊技術とまでは言えませんが、技術のレベルを高度に維持するためには絶えまない努力を必要とします。このような日々の自己研鑽が沢山の患者様の笑顔に直結しているのは、素晴らしいことだと思います。

子供を持つということは、患者様のこれからのライフスタイルを大きく変えてしまうインパクトがあります。そのことに積極的に関わることが出来るというのは、責任重大ではありますが、この上ない喜びですし、とてもやりがいを感じています。

●現在、胚培養士の方は何人いらっしゃいますか?

胚培養士として勤務しているのは6人です。

●仕事をやっている中で、課題や問題などはありますか?

これは、当面の課題というよりも永遠の課題なのかも知れませんが、新人をどのタイミングで実際のヒトの精子・卵子を操作させるかです。

大学時代に動物の精子や卵子の扱いにいくら慣れていたとしても、実際の臨床現場で、ヒトの精子、卵子を扱うことになると、緊張してしまって思うようなパフォーマンスが出来ないことがあります。まさに自分もそうでした(笑)。

これは、ある意味、とても真面目で、動物とヒトとの境界線をしっかり持っている証拠でもあるのですが、あまりに緊張して手が震えていたりすると、思うような操作ができませんし、事故にもつながってしまいます。ですから、いかに安全に臨床業務にシフトさせるかがやはり課題ですね。

アスリートは極度の緊張を緩和するためにメンタルトレーニングを導入していると聞きます。ひょっとしたら培養士にも効果があるのかも知れないと思っていますので、このようなトレーニングも取り入れていきたいと思っています。

●受付やナース部門など、他チームとの連携について気をつけていることがあれば教えてください。

これは、私の人生哲学でもあるのですが、「ごめんなさい」と「ありがとうございます」をきちんと言うことです。これは、ものすごく簡単で、ものすごく難しい事かも知れませんね。

ですが、このことをきちんと実行できていれば、コミュニケーションはうまくいくはずですし、部門間の連携が取れると思っています。

部門間の伝達・連携の仕組みを詳細に作ることはもちろん重要なのですが、それをきちんと機能させるには、「ごめんなさい」、「ありがとうございます」が根底にあると考えています。

●今後、自分たちでやっていきたいことがあれば教えてください。

いま当院が取り組んでいる最中ではありますが、泌尿器科とさらに連携を深めて、無精子症の治療を積極的に行っていきたいと考えています。

当院には、凍結精巣精子を用いたICSIに精通したスタッフもおりますので、そのノウハウを最大限活用したいと思っています。

また、近い将来、着床前診断、着床前スクリーニングが普及するとおもいますので、そのための基礎技術の習得にも取り組んでいきたいです。

●今回、クリニックの増設改装をされたそうですが、培養室を構築されるにあたり、気をつけられた点や特筆すべき点はありますか?

培養士の動線には気を配りました。卵子、胚、精子を移動させる際、できるだけ障害物がないように、インキュベーターの位置、クリーンベンチの位置、にはこだわりましたし、培養士どうしが衝突しないように、限られたスペースのなかでも培養士の通行スペースは充分に用意しました。

また、外部から中が見える小窓を用意して、培養室が密室にならないようにしました。やはり、密室というのはよくありませんからね。

それと、培養室前室からも、ドアを開けると、一目で培養室全体を見ることができ、個々の培養士の動きを把握できるようにいたしました。

これらの安全面以外にも、今回の増設改装に伴い、インキュベーター、クリーンベンチも増設しました。おそらく年間1000件の採卵を超えても対応できるでしょう(笑)。

●これから胚培養士を目指す人へ、アドバイスがあればお願いします。

培養士になるためには、手先の器用さが最重要というわけではないと思います。

もちろん、細かい仕事をするわけですから、器用さが要求されるのは間違いありませんが、たいていは、時間をかけて努力すれば習得できるものばかりです。

先ほども言いましたが、培養士の技術は、決して「ゴッドハンド」の技術ではないということですね。

私もいままで培養士をあきらめていった方たちを見てきましたが、その方たちはどちらかというと、不器用だからやめていったのではなく、ヒトの卵子、胚を扱う怖さに耐えられない、あるいは、周囲とのコミュニケーションがうまく取れずに孤立してやめていったことのほうが多いと思います。

ですから、「培養士をやってみたいけど、そんなに器用じゃないから…。」と培養士になるのを躊躇するのではなく、まずは、メンタル面を強くしたり、コミュニケーションスキルを磨き、「人間力」を高めて培養士にチャレンジしてみてください。

手前味噌ではありますが、私たちのクリニックでは、新人が緊張するのは当たり前だと思っていますし、培養室一丸となって新人をフォローします。どこも当院のように優しいクリニックだと思いますので、安心してください(笑)。

●最後に、これだけは伝えておきたいということがあればお願いします。

「ごめんなさい」、「ありがとうございます」をきちんと言える人間に自分もなりたいですし、みんなでそうなりましょうということですね。

それと、言い忘れましたが、当院長は無類の釣り好きです。ASKAレディースクリニックでは、釣りの好きな培養士を募集していますので、よろしくお願い致します(笑)。

●まとめ

今回は、ASKAレディースクリニックの胚培養士である今野先生に貴重なお話を伺いました。
胚培養士として大切なことは色々とあるかと思いますが、メンタル面やコミュニケーションスキルなど他の職種でも参考になる部分を学ぶことができました。とても人気のあるクリニックですが、設備の充実や胚培養士の方々のレベルの高さも加わり、さらに多くの患者さまが来院されるのではないかと感じております。

今野先生、お忙しい中、取材を受けて頂き、ありがとうございました。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。

<参考サイト>
ASKAレディースクリニック
http://aska-cl.com

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