2018
05.05

レディスクリニックコスモス胚培養士 西博子氏取材記

胚培養士インタビュー

今回は、高知県高知市にあるレディスクリニックコスモスにて胚培養士として活躍されている西さんにインタビューをさせていただきました。

西さんは胚培養士として働くかたわら、NPO法人Fine認定のピア・カウンセラーとして患者さんに寄り添ったカウンセリングもされておられます。

これは日本でも初めてのケースだと伺いました。そこで、胚培養士になったきっかけや、ピア・カウンセラーを取得された経緯など様々なお話を聞かせていただきました。

それでは、インタビューをどうぞ!

● 胚培養士になったきっかけについて教えてください。
以前、勤めていた病院では、私と同じ臨床検査技師の資格を持つ先輩が胚培養士として活躍していました。当時、胚培養士の仕事はその先輩が一人で行っていたのですが、ちょうど一緒に働く機会があり、どんな仕事をしているのか興味を抱き、見学も兼ねて色々と教えていただいたことが一番のきっかけですね。

実は、その頃はまだ先輩には伝えていなかったのですが、私自身も子供がなかなか授からないということを悩んでいましたので、将来、自分も患者として経験するのかもしれないというイメージはありました。

クリニック外観

● 技術的な習得は難しかったのではないでしょうか。

もともと、生物が好きということが根底にあるのですが、私自身、様々なことに興味を抱くという部分に救われました。
先輩が胚培養士として行っている作業を見せていただいたり、残念ながら廃棄することになってしまった卵や精子などを使って練習などをしていました。

また、エンブリオロジスト学会のワークショップで実技の研修に参加させていただくこともありましたね。

● 実際に、胚培養士の仕事はいかがでしょうか。
臨床検査技師の仕事とは、感覚が全く違いますね。最近では、臨床検査技師も専門分野などに分かれてきており、それぞれの専門性を活かして活躍されている方がたくさんいらっしゃいます。

もちろん、それらも大切な仕事だと思うのですが、胚培養士というのは命のはじまりに携わることができるものであり、患者さんのライフサイクル自体を左右しかねないといった点では、私の中では意味合いが重いという感覚があります。

● 胚培養士として、どのような部分にやりがいを感じられていますか?
現在、ピア・カウンセラーの資格を取得して、ここ一年くらいカウンセラーとしても活動させていただいております。カウンセリングを通じて、患者さんの気持ちに寄り添いたいと未だ悪戦苦闘しているところです。

胚培養士としてのスキルを高める一環として取得した資格ではありますが、少しでも患者さんに寄り添って、治療に向かう気持ちを聴かせていただく。

そして、それを胚培養士仲間に伝えることで、より深く患者さんと関わることができるようになってきたことが、今は一番のやりがいだと感じています。

受付の様子

 

● ピア・カウンセラーの資格を持っている胚培養士は珍しいと思うのですが、取得されるに至ったきっかけについて教えてください。

以前の職場は、こちらのクリニックに比べて患者さんの数はずっと少なかったので、採卵後や移植後に患者さんとゆっくりお話しする時間を取ることができました。しかし、自分自身が治療している最中や、治療が終わったばかりの頃は正直、まだ自分の体験を伝えることに抵抗がありました。

それが、時間とともに少しずつ語れるようになったのですが、その時になって会話のスキルを自分が持ち合わせていないということに気づきまして。

どういった形で会話をしたら、患者さんにもっと寄り添うことができるのかということを勉強したいという思いが強かったですね。

確かに、私の体験談を少しお話しすると患者さんの表情が一瞬、変わります。「この人もそうだったんだ」という感じになり、最初はそれがすごく嬉しかったのですが、よく考えてみるとその場は私の体験を話すことが主ではないですよね。

やはり、患者さんがメインであって、私の話は正直どうでもいいのだと思っています。

だから、最初は自分の体験をどのように患者さんにお話しすると、患者さんの気持ちを引き出せるのかといったスキルを身につける方法がないかなと模索していました。

そんな時、学会等で展示しているブースの中で、Fineさんのコーナーがあるのをよく見かけていてずっと気になっていました。そして、eラーニングなどで勉強できるピア・カウンセラーの講座があると聞き、資格を取得しようと考えたのがきっかけです。

待合室の様子

● 胚培養士の方々は、どのような方法で自己啓発に取り組まれていますか?
こちらのクリニックには、全部で胚培養士が6名います。培養室の担当と、検査業務を担当する者とに分かれており、毎月、交代して業務にあたっています。

自己啓発としては、年に何回か参加させていただく学会で新しい情報を吸収したり、私自身は実技の研修にもいかせていただいているので、そちらで知識や経験を積んだり、他のクリニックのやり方を学ぶ機会も設けています。

また、以前勤めていた職場や、その時に一緒に働いていたドクターが勤めている病院から情報をいただくこともありますね。

● 胚培養士として実際にお仕事をされていて、抱えていらっしゃる課題があれば教えてください。
このクリニックだけの話ではないと思うのですが、私が胚培養士として働き始めた頃と比べて、患者さんの年齢が随分上がったという印象はあります。

ちょうど、私が胚培養士になって今年で10年目になるのですが、その頃は確か、体外受精で生まれる赤ちゃんというのは100人に1人くらいだと聞いていました。

しかし、今は19人に1人とかなり増えていますし、SNSなどで不妊治療の報告も珍しくないですよね。芸能人の方が高齢でも妊娠したという報告も、よく目にします。

そのため、患者さんが「自分なら大丈夫かな」と思って受診されることも割と多く、40代半ばで初診という方もいらっしゃいます。

受診される患者さんの平均年齢は、おそらく38歳前後ではないでしょうか。
しかしながら、実際に治療されているのは昨年だと40歳以上の方が半分を超えていたと思います。最高齢だと、47、8歳の方もいらっしゃいますね。

しかし、チャレンジしたいという気持ちは私自身もそうでしたので大切にしたいと思っています。

とはいえ、難しい状況だということはドクターの方からも私たちからも伝えてなくてはならず、そういった方々に今後どのようなフォローができるのかということが課題ではないでしょうか。

治療の結果が出なかった時など、治療後の患者さんのライフサイクルに私たちがどのように関わったらいいのかという思いはありますよね。

培養室の様子

● 不妊治療に関して、啓蒙活動などはされていらっしゃるのでしょうか。
今、それがクリニックとしての課題だと思います。
結局のところ、いらっしゃっている方にしか啓蒙活動ができていないので、その時にもっと早く知っておけば良かったとおっしゃる患者さんもたくさんいらっしゃいます。

● 不妊治療はチーム医療だと思いますが、気をつけていることなどあれば教えてください。
患者さんもそうですし、胚も含めて一番長く付き合うのが胚培養士だと思っています。だから、胚培養士の目から見た患者さんの様子などを積極的に伝えるようにしていますね。

また、気になる患者さんがいればカウンセリングの時間を取らせていただいて、それをカルテに反映させた上でドクターにも気をつけていただくなど、情報の伝達には気をつけるようにしています。

どこのクリニックでもそうかもしれませんが、ドクターはなかなか患者さんとじっくり話し合う時間が取れないと思うので、他の職員同士がお互いに気付いたことを声を掛け合うようにして、些細な情報でも聞き逃さないように心がけています。

● 今後、課題も含めてどのようなビジョンを描かれていらっしゃいますか。
どうしても、高齢の患者さんが多いということがネックにあると思います。
そういう方の啓発などに力を入れていきたいですね。

例えば、高知県であれば健康対策課という部署が妊活の窓口になっていますし、別の病院ですが、高知県からの委託で不妊相談室を設けているところもあります。そこでは、不妊症認定看護師の方が、面談やメール、電話での相談を受けていらっしゃいます。

幸いなことにこちらの方と面識がありますので、近い将来には自治体とその病院と三位一体ではないですが、同じ方向でもっと大きな活動ができたらと思っています。そうすることで、患者さんが「知らなかった」「もっと早く受診すればよかった」という声が少なくなるのではないかと感じています。

● これから胚培養士になりたいという方にアドバイスがあればお願いします。
これは胚培養士に限ったことではないのですが、いろいろなことに興味を持っていただきたいなと思っています。これしか知らないということでは、視野が狭くなってしまいますので。

私自身、胚培養士としてだけでは、なかなか患者さんと会話するスキルが身につかず、ピア・カウンセラーの勉強をさせていただくことで、相手の方とお話しする方法、例えば角度や喋り方、間の取り方、傾聴などを知ることができました。また、自分の語彙力がなければ、うまく患者さんの思いを言い換えて表現することができなかったりしますので、今となってみればどんな経験であっても無駄なことはなかったと感じています。

自分が治療していた時は、お金も時間も無駄になってしまった。そして、結局、子供がいない生活で、治療後に何も残らなかったなという敗北感がすごくありました。しかし、今になって思えば、一つの経験としてこういう人もいると患者さんにお話しすることができます。

採卵室の様子

● 最後に伝えたいメッセージがあれば、お願いします。
患者さんにもよくお話しするのですが、くれぐれも頑張りすぎないでくださいということです。
すごく頑張りすぎてしまう方が多く、結果が出なかったことでそれまでの自分の努力が全部ダメだったのだと自己否定してしまう患者さんもいらっしゃいます。

いろいろなことに対して結果だけで判断するのではなく、経験を積むことは無駄ではないと思っています。

とはいっても、中には経験をしても自分の中で消化できないこともあると思うので、経験を踏まえて消化吸収し、スキルアップに転換できれば今までの努力は無駄ではなかったのではないでしょうか。

● まとめ
胚培養士として活躍されていながら、ピア・カウンセラーとしても患者さんと接しておられる西さんだからこそ聞けるお話ばかりでした。

ご自身の体験をもとに、患者さんの本当の気持ちを引き出そうとされている姿勢は、患者さんだけではなく、ドクターや他の胚培養士の方々からの信頼も厚いのだと感じられます。

これからのご活躍も期待しております!

西さん、お忙しい中、お時間を頂戴しありがとうございました。
この場をお借りして、厚く御礼申し上げます。

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