2018
07.08

浅田レディース品川クリニックの培養室について~福永培養士長インタビュー!!

胚培養士インタビュー

今回は、2018年5月、勝川と名古屋に続く第3のクリニックとして東京・品川に開院された浅田レディースクリニックの副院長でもある福永培養士長にお話をお伺いいたしました。

これまでのクリニックと異なる点やこだわった部分、そして、新しいクリニックに込めた思いなどを聞かせていただく貴重な機会となりました。

想像をはるかに超えたLabについても詳細にお話いただいたインタビュー、是非ともご覧ください。


●名古屋を作られた時と今回で、大きな違いや苦労された点についてお聞かせください。

これまでとは全く違うコンセプトで作っていることもあり、とても大変でした。品川では、既成概念から大きく外れているクリーンルームを作っていますので、それを達成するために私のアイディアだけではなく、色々な業者さんやメーカーの方々に関わっていただき実現することができました。

最終的に思いを形にすることができたのは、
“患者さんが、赤ちゃんを抱くということをより身近に感じられるものを作ろう”というマインドが一体となり、難しいものを作るという信念が生まれたからだと思います。

●通常、業者やメーカーは持ち合わせている既成概念から外れたものを作りにくい傾向にあると思いますが、その辺りで苦労されたことはありますか?

それは名古屋の時に痛感しています。
名古屋クリニックを作った際のコンセプトは、“培養室を患者さんに見ていただく”ということでした。そのため、「見えるLab®︎」という商標や特許なども取得しましたし、それを広めたいという考えがありました。
でも、「見せる」ということ自体が本来、クリーンルームの概念からは外れていますよね。

名古屋クリニックができてからこの8年間で、世間でも電子機器のクリーンルームや食品工場の見学などが割と行われるようになり、普段、見えないところが見えるということは大分、浸透してきました。

ですが、しっかりとしたクリーンルームにすればするほど、見せられなくなると言う矛盾が生じてしまいます。

当初は、設計側と施工側ができないというところから始まり、「こうやったらできるのではないか」と手探りで進んでいると言う状態でした。クリーンルームとしての必要な条件を確保しながら、一つずつクリアしていきましたね。


●名古屋クリニックでは、どのようなコンセプトのもとに培養室が作られたのですか?

名古屋のLabはガラス張りで、生命の神秘、そして、旅立ちを表現して作っています。そのため、待合室は空港のそれを想定していますし、そこから飛び立っていく旅立ちのイメージも持たせています。

培養室の見学ルームは宇宙空間を想像させるよう、薄暗さで演出し、培養室の中は国際宇宙ステーションのようなイメージで機器が理路整然と並んでいます。見えることで患者さんに安心感を提供したいと考え、厳かな雰囲気の「見えるLab®」を演出しました。

●品川クリニックのコンセプトについて教えていただけますか?

名古屋のLabで上手くいった点は、この8年間の間に4千500人の患者さんに見学ルームへ入っていただき培養室を見てもらう、という活動ができたことです。ただ、名古屋の場合はこちらから「見学できる機会がありますよ」と周知や案内をしてやっと、患者さんたちに来ていただけるといった状況でした。

多くの方々に来ていただいたので一定の効果はありましたが、私が目指したかったのは、もう少し気軽に入ることができるLabです。なぜかというと、本来、見えない部屋を見せることで患者さんに安心していただくことが、非常に重要だと考えているからです。

そもそも、体外受精や顕微授精、培養室というのは一般の方からするとハードルが高いものだと思いますので、名古屋のクリニックでは、見えることによってハードルを下げたつもりです。しかし、それでも呼び込まなければ気軽に入ってもらえないとなると、もっともっとハードルを下げないといけないのではないかと考えるようになりました。

そのような経緯もあり、品川の設計をすると際には、ふらっと入ってこられるような身近な存在としてのLabというイメージをわかせてみました。


●具体的に、これまでのLabとはどのような点が異なるのでしょうか?

培養室の管理上、誰でもいつでも、自由に入って来られるということは望ましくありません。

現在、名古屋では毎日、11時半から12時半の時間に培養室を解放しています。もちろん、そこには胚培養士もいますので、必要に応じて説明をし、質問にもお答えできるような体制を取っています。

名古屋のときもそうでしたが、私自身が作りたいものというよりも、浅田院長が目指すものに対して、培養室をどういった形で作ることが最良なのかを考えた上で進んでいます。

今回、品川を立ち上げる際に院長が最初に発信したことは“癒し”です。
患者さんがクリニックに来て癒される、空間や時間も含めて、浅田レディースクリニックに来ていただき、癒してもらおうというコンセプトが発表されたのです。

院長の言葉を受けて品川クリニックでは、見学ルームや培養室から癒されていただくということのほかに、生命の神秘を表現するため森をイメージして作りました。

名古屋では見学ルームは宇宙空間であり、培養室の中は宇宙ステーションというイメージでしたが、品川の場合は名古屋でいう見学ルームを「木漏れ日テラス」という呼称に変えています。

培養室を森と表現しているので、見学ルームというのは森に続くアプローチであり、森に通ずる小道です。森の中を歩いていくと木漏れ日が差し、その先には実際の培養室である森が広がっているというイメージです。

患者さんが見て帰るだけではなく、ふらっと導かれるように小道を歩きながら、培養室が見える森まで到達し、木漏れ日テラスで佇んでもらいたいですね。

●胚培養士長として、ハード面においてこだわった点をお聞かせください。

まず、見えないということがまだ一般的な培養室における“見える化”ですね。品川に関しては丸見えですから。

名古屋のLabはあえて、ピクチャーウィンドウのように壁の一部分に窓があるという感じで作っていました。窓の高さも女性の目線で設定していましたので、Lab内のスタッフも見られているという感覚が少なく、プレッシャーもあまり感じませんでした。

今度はそれをさらに進化させ、培養室は全面ガラス張りになっています。というのも、小道を通って森に行くというイメージを持たせているので、そこに壁が立っていると森へたどり着くことができないからです。

品川クリニックのコンセプトでの大きなテーマは癒しですが、患者さんに癒しを提供する上でもう一つ大事だと考えているのが、Lab中で働いている胚培養士にも癒しを提供するということです。

やはり、患者さんに癒されてもらうためには、中で働いているスタッフにも気持ちの良い空間で過ごせるようなものを作りたいという思いがありました。

ただ、光には紫外線含め有害なものが多々含まれているので、ガラス越しに培養室があるという状況はタブーとなっていますが、そこにあえて挑戦しています。

品川クリニックでは、胚培養士からも太陽の光など外をすべて見ることができます。それを実現するために、外側のガラスと内側のガラス、さらには内側のガラスは二重サッシにして有害なものを全てシャットアウトする加工をし、光のコントロールをしています。

患者さんからもLabの中は見えていますし、胚培養士からも木漏れ日テラスに立ってくださっている患者さんが見え、なおかつ、その向こう側にある外も見えるようにしています。

Labの仕事というのは緊張感も続きますし、それこそ、薄暗い部屋が昔のスタンダードでしたので、明るくすることもガラスを設けることもタブーでした。
ですが、胚を守るためにすべきことは、温度や湿度、そして、有害な線をシャットアウトすることです。逆にいうと、それらが全てコントロールできていれば、光が見えていることの悪さというのはないはずですから。


●他には類を見ない試みだと思いますが、他にもハード面でこだわった点はありますか?

本当はLabを見ていただくのか一番わかりやすいかと思いますが、生命の育みを森と表現した培養室は壁も床も、そして天井もデザインされています。
また、タイムラプスで得られた映像をもとに、パソコンの画面で胚の観察をすることになりますが、その胚の観察をするパソコンのモニターも森の中の大木というイメージで造作しています。

通常であれば見えないし、どこにあるかわからないという、良くないイメージのある培養室が、実はこんなに明るくて楽しく、ガラスは介していますが、中のスタッフと笑顔で顔を合わせられるような患者さんと胚培養士の空間を作ったつもりです。

名古屋では見学ルームを解放してはいますが、中にいる胚培養士と入っていただいている患者さんとの間に、あまりコミュニケーションはなく、我々も会釈をする程度のことしかできません。

しかし、品川ではLab内のスタッフがテラスにいる患者さんに向かって「ようこそいらっしゃってくださいました」というような雰囲気で手を振るといったコミュニケーションが取れるような空間にしたいと思っています。

決して、見栄えだけでデザインを作ったのではなく、中身として技術が伴っている、ハード面がクリーンルームとしての機能を果たしていることが大前提ではありますけれども。

●ソフト面でのこだわりについて教えてください。

「最初に採卵、もしくは移植された患者さんから100%のクオリティを出したい」という院長の指示のもと、愛知県にいるスタッフ、胚培養士、そして医療情報処理を選出し、そのスタッフたちに転勤してもらうということからチーム作りが始まりました。

煌びやかでアミューズメント性のあるアミューズメントパークを作るのではなく、治療にいらっしゃった患者さんに一刻でも早く妊娠、出産していただくことが目的なので、このように今いるチームから人員を選出し、3つ目のチームを構成しています。

また、品川クリニックは新規立ち上げにはなりますが、独自に新規採用したスタッフはいません。品川クリニックの分も含めてグループ全体で、この春に卒業した学生の採用を既に行なっています。

正確にいうと、既卒者の採用を品川のオープンに合わせて行うということはしておらず、例年通り新卒採用を行い、新人教育をして品川にもう一度送り戻し、現地で研修を続けて行くというスタイルになります。

最終的には、今から1年後には胚培養士を約10名でチーム編成し、3年後には胚培養士20名と医療情報処理3名といった形で考えています。


●品川クリニックにおける、新しい試みがあれば教えてください。

これまで、浅田レディースクリニックでは全症例において、受精確認までタイムラプス化が実現できています。

一方で、基礎研究の段階では、胚移植までタイムラプスで培養する方が、受精卵の発育にとって良いということがハッキリとわかっており、自分たちでも実証することができています。

ただ、最低でも3日間、長ければ5、6日間に渡ってその場所を占有するということは、莫大なコストがかかるため、あえて実現してはいませんでした。何億円もかけて実施することは可能ですが、その分、どうしても患者さんの医療費に反映してしまうからです。

それは得策ではありませんので、3年ほど前から構想を重ね、2年前からは株式会社アステックさんと大日本印刷株式会社さんと浅田レディースクリニックで、「次世代型タイムラプスインキュベーターシステム」を共同開発するという試みを始めました。

技術が結集して世に出せる状態となったものを、品川クリニックでは32台導入しています。そして、全症例において、受精確認から胚移植もしくは凍結をするまでタイムラプスで培養するということを実現させます。

技術や科学の進化によって、必ず医療も進化していきますので、その結果として患者様が一人でも、そして1日でも早く妊娠出産されるということを実現していきたいですね。

●胚培養士として、東京へ進出することのメリットやデメリットがあれば教えてください。

捉え方と言いますか、受け手側がどのように思うのかということがメリットやデメリットになるかと思うのですが、浅田レディースクリニックとしては、自分たちの仕事に信念を持って、新しいクリニックで培養業務をさせていただくというところです。

それが勝川であり、名古屋であって、たまたま品川であるというところですね。

品川にクリニックを作った一番の目的というのが、院長もしっかり語られていますが、AMHに基づいた適切な卵巣刺激を実施して、成熟卵を採卵するという方針と、フリーズ・オールにより移植周期に黄体補充をしてから移植をするということです。

この2つが国際的にも、赤ちゃんを得る生殖医療の提供として最もエビデンスに基づいているということが証明されていますので、それを浅田レディースクリニックのポリシーとして、品川のクリニックでも実施していきます。

その方針を支えるLabとなると、とれる卵子の数は非常に多いですし、全て凍結するということは全て融解しますので、通常の3倍くらい手間がかかると思います。ですが、やはり患者さんの目的というのは妊娠出産ですので、それに早くたどり着ける方法として、私たちも適切な卵巣刺激を実施して、一つでも多くの成熟卵をとってフリーズ・オールをするという方針を、みんなしっかり理解して自信を持って携わっています。


●名古屋のLabとは、どのような連携を考えられていますか?

基本的に全て別のクリニックですので、患者さんの連携については、治療中にあちらへ行ったりこちらへ行ったりということは難しいのが現状です。

今考えている連携としては、既に勝川や名古屋の患者さんで東京在住の方がいらっしゃいますので、現時点で凍結保存されている受精卵に関しては、浅田レディースクリニックのコストで全て品川のクリニックへ移送して差し上げるということを計画しています。

そうすると、凍結保存されていて移植を待っている患者さんや、第一子を出産されて、第二子のために凍結保存されている関東在住の患者さんは、わざわざ名古屋に来なくとも、品川で次の治療が受けられることになります。

次に、培養室間の連携についてですが、こちらはIT化を進めています。
電子カルテ運用システムといった形のものは、どちらのクリニックにも導入していますが、それに加えて、技術継承のための技術確認はインターネットを介して行う予定です。

具体的にいうと、それぞれのLabの天井にカメラがついていて、手元を映し出すことができます。なおかつ、顕微鏡につけているカメラでは、顕微鏡間の画像を映し出すことができるというものです。

通常、ライブ中継というのは時間差がどうしてもできてしまうものですが、業者の方と一緒に環境構築をして、ほぼライブ中継に近いような環境を作っていただきました。これにより、私が勝川や名古屋にいたとしても、品川のLabで胚培養士が行っている手元と顕微鏡の画像を同時に見ながら技術指導することができます。

技術指導というのは、そこに行って横でやらなくてはならないというのが当たり前となっていますが、指導できる人材は限られていますし、我々のように1組織に3つクリニックがあれば尚更です。このシステムによって、技術をチェックする者がその場に行かなくとも、他拠点間のラボの技術指導ができます。

当然ながら、こういった環境づくりは、浅田レディースクリニックが品川にクリニックをオープンする際に掲げた、クオリティを最初からしっかり出すということを達成するための施策の一つでもあります。

また、仮に技術指導を一緒にやって欲しいという施設が現れたときに、そのシステムを導入していただければ教えることもできるようになります。私がどこにいようと、相手先のLabとはどこでもつながることができますので。

●品川クリニックでは、どのような目標を掲げられているのですか?

まず、新規Labとして3つ目のオープンとなりますので、出てくる成績というのは既にある勝川や名古屋と遜色ない、むしろ同等以上の成績が出せるようにするということです。

技術に携わっているスタッフは皆、転勤することになるので技術レベルは同じです。とはいえ、ハード面は全て新品になりますので、そこから出されてくる数字というのは未知数です。

当然、新品で電源を入れたばかりの機器に受精卵を入れるわけではないのですが、順を追って臨床導入し、そこでしっかりと成績を出すためにソフト面とハード面の確認をした上で数ヶ月後の達成を目指しています。

加えて、立派なLabですので、やはり多くの患者さんにきていただき、たくさんの胚培養士や医療情報処理がそこで活躍し、コンセプトに合わせた培養室と患者さんの関係というのを早く築いていきたいですね。


●共同研究や共同開発にも積極的に取り組まれていますが、品川クリニックで考えられていることはありますか?

有難いことに、今回、共同研究の発展として共同開発をして製品化するプロセスに一医療法人が関わっています。まずは、開発した機器の信頼性をあげ、多くの施設で使っていただくことで患者さんにとって恩恵のあるものにしていきたいですね。
また、さらに次々世代といったネクストフューチャーの新製品というところまで考えて、培養室から世の中に機器を送り出していくということも考えています。

例えば今後、AIについては切っても切れない関係になると思います。
既に、私たちは前核を自動検出するためのアルゴリズム、つまりAIに前核数を検出させるということに関しては、かなり高い検出率が獲得できるところまできています。これは、機械に仕事を取られてしまうということではなく、機械が判断して検出することで精度が上がっていくということ、人によるバラつきが減るというメリットがあります。

そういう面で考えてみると、機械の進化は患者さんの治療成績を上げていくためには必要なものですね。おそらく、AIの発展は医療の分野、そして私たち胚培養の分野にもどんどん入ってくるでしょう。近い将来、胚培養士が自分で胚を評価するということは、AIに取って代わっていくと思っています。

●最後に伝えたいメッセージはありますか?

私がこの仕事をして20年の間に、培養業務に関して目覚ましい発展があったと実感しています。

20年前には見えるLab®のことは考えも及びませんでしたが、おそらく、各施設で働かれている皆さんも何かを感じ、何かに取り組もうと思われているのではないでしょうか。

ぜひ、みなさんの現場にある「あれっ?」と思う事柄を一歩ずつクリアにし、患者さんにとって信頼関係のある胚培養士であり、培養室というのを一緒に運営していければと思っています。


<まとめ>

今回は、この5月に3つ目のクリニックを品川にオープンさせた、浅田レディースクリニックの副院長でもある福永培養士長にお話を伺いました。

名古屋クリニックをさらに進化させた培養室は、他に類を見ないコンセプトと技術が集約されており、これまでよりもっと多くの患者さんを救ってくれることと思います。
これからの活躍も期待しております。

福永培養士長、お忙しい中お時間を頂戴しありがとうございました。
この場をお借りして厚く御礼申し上げます 。

<参考サイト>

浅田レディース品川クリニック
http://shinagawa-asada.jp

医療法人 浅田レディースクリニック
http://ivf-asada.jp

※DNP ニュースリリース
アステック、浅田レディースクリニック、大日本印刷
不妊治療用「次世代型タイムラプスインキュベーターシステム」を開発
http://www.dnp.co.jp/news/10146249_2482.html

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