01.25
胚培養士の仕事シリーズ〜顕微授精において胚培養士は何を行うのか?ICSIの実際
不妊治療の最終ステップとして、精子と卵子を自然な形で受精させる体外受精と異なり、顕微鏡下で卵細胞質内に直接精子を1個、マイクロピペットにて注入し受精させる方法もあります。
この方法は卵細胞質内精子注入法(intracytoplasmic sperm injection:ICSI)と呼ばれ、近年になって確立された比較的新しい治療法です。
人為的に精子を選択して受精させるため、精子の自然淘汰というプロセスがなくなってしまうことが難点ですが、ICSIで出生した場合であってもその悪影響はほとんどないとされています。しかし、「現時点では」という条件付きであるため、長期的に追跡調査していく必要があるでしょう。
●ICSIの実施要件とは?
ICSIは望めば誰もができるわけではありません。日本産科婦人科学会の会告では、これを行う際の前提を次のように記しています。
本法は、”男性不妊や受精障害など、本法以外の治療によっては妊娠の可能性がないか、極めて低いと判断される夫婦を対象とする”
では、どのような状態であれば上記の会告に沿っているのでしょうか。
具体的には、ICSI適応の要件は次に示すような事例になります。
<ICSIの実施要件>
・精巣・精巣上体由来の精子を使う場合など、通常の体外受精では、受精が困難な場合
・精子の数が極端に少なかったり、運動能力が低い場合
・通常の体外受精を行ったにも関わらず、受精することができなかった場合
このほか、医師の判断によってICSIを選択することもあります。
●ICSIはどのようにして行われるの?
採卵や精子の洗浄といった受精に至るまでの過程は、通常の体外受精と同じ手順を踏んでいきます。そして、準備が整えば顕微鏡下で受精させることになります。
まず、ホールディングピペットと呼ばれるガラスピペットを用いて卵子を固定し、精子を吸引しておいた専用のマイクロピペット(インジェクションピペット)を用いて卵細胞質内に穿刺し、精子だけを注入した後にインジェクションピペットを速やかに抜きます。
この一連の操作において、いかに卵子を傷つけずに素早く正確に行えるかどうかは、胚培養士の手にかかっています。ここで多くの時間を費やしてしまっては、着床はおろか受精さえも危うい状態になってしまうからです。
また、卵子に穿刺する位置も重要です。卵子には紡錘体と呼ばれる、細胞分裂に不可欠な構造が存在します。ここを傷つけてしまっては、胚の発育に支障をきたしてしまうので、ここを避けて穿刺する技術も必要です。
クリニックによっては、紡錘体を観察する専用の器械を導入して、細心の注意を払っているところも多くあります。
●ICSIで懸念されることとは?
ICSIは不妊治療患者にとって、救世主ともいうべき手法です。確かに高度な技術と相応の設備は必要となりますが、藁をも掴む想いで希望される方も少なくありません。
しかし、当然ながら、デメリットも存在します。特に、乏精子症や無精子症などを抱える男性の精子を用いてICSIを行った場合、その病態が子供に受け継がれてしまうリスクがあります。
なぜならば、乏精子症や無精子症は男性が持つY染色体によって遺伝する可能性があり、このような事例においては予め医師からの説明を受け、十分納得した上で踏み切ることが大切です。
また、クリニックによって多少差はありますが、他の手法と異なり費用も高額です。ですが、国や自治体からの補助金を受け取ることもできますので、治療を受ける前にしっかりと下調べを行っておきましょう。こうすることで、不妊治療にかかる金銭的負担を減らすことができます。
コメント
この記事へのトラックバックはありません。
この記事へのコメントはありません。